ふと思った。

―――その両手剣は粗悪な量産品だった。
刃こぼれを起こし、柄には錆が浮き、間違いなく一撃ごとに劣化していく武器だ。
冒険者が使うような代物ではないし、一般人が振るえる重さではない。
だが、生ける死者どもには…つまるところ、手に持てるものなら何でもいいのだろう。
人ならざる力を以って振るわれるその剣は、人にのみ許された禍々しい悲哀と憤怒によって
間違いなく魔剣へと姿を変えているのだから。


鋼鉄の床を、まるでゼリーでもすくうかのように切り裂かれた。
下手に杖で受ければそのまま両断される。異常に長いリーチと恐るべき力だった。
まるで暴風。触れたとたん微塵に砕け散るだろう、その破壊の塊を―――


「セイフティウォールッ!!!」


寸前。赤い障壁が剣を遮る。念の壁と怨念がぶつかりあい、歪な悲鳴を散らした。
一瞬、ロードナイト・セイレンウィンザーの真赤な瞳と視線が交わる。
無表情な瞳の奥に、「助けてくれ」と手を伸ばす男の姿が見えた気がした。


…逸らしている時間はない、魅入っている時間もない。
コンマ何秒もなかったろうその視線の交わりは、魔剣によって断たれた。
目の前に何があるか、何がいるかもわからず、ただ殺す…否、壊そうと
幾度となく音速を超えた速さで繰り出される斬撃。
悠長に思いに浸っている時間はなかった。


哀れな生ける死者たち。変わり果てた姿の、”元”何者か、たち。
救ってやろうなどとは思えない。そこまでの余裕は僕にない。
目の前のわずかな生を奪う、ただ一言を唱えた。

「  ストームガスト
  ”吹雪ける雹嵐”
            」


剣の暴風と氷結の吹雪がぶつかり合う。
―――ありふれた死闘が、幕を開ける。




どうでもいいんですがニブル通いの人をニブリンガーと呼ぶことを提唱。(本題顔)